2014年3月6日木曜日

初音ミクライブが正しく映像収録されておらず、ミクさんがボケボケな件

はじめに

 ディラッドスクリーンへミクさんの映像を投影し、ミクさんの映像に合わせてバックバンドが演奏するというスタイルの始まりは、2009/8/31に開催された「ミクFES'09(夏)」でした。2010/3/9にZepp Tokyoで開催された「ミクの日感謝祭」はBD化され、ディラッドスクリーンを使用した「初音ミクライブ」を世に広めるきっかけとなりました。その後は、二次創作が認められる初音ミクというキャラクターらしく、複数の団体が独自性を持った初音ミクライブを開催しています。
 さて私は、北は北海道から南は和歌山まで初音ミクライブを見に行っていますが、それらを収録したBDを見るとどうもミクさんの映像に違和感を覚えるのです。現地ではシャキっとディラッドスクリーンに映されたミクさんが、放送用カメラで撮影されているにも関わらず、BDではボケボケに見えてしまう。原因を探ると、このボケボケは、初音ミクライブのシステム上、撮影方法に一工夫しなければ必然的に生じるボケボケなのでした。
 本稿では、初音ミクライブが正しく映像収録されていない現状と、その解決方法を解説します。

▲BD「ミクの日感謝祭 39's Giving Day」より

BDの現状

 先日発売されたBD「初音ミク マジカルミライ2013」は1080/59.94iで撮影され、同じフォーマットのままBDへ収録されました。その映像をI/P変換して59.94pの映像とし、ミクさんの左手が動いているシーンの1フレームだけ切り出したのが下記の画像になります。
 見てわかるように、ミクさんの左手に残像が出て、手が二重に見えます。この残像のおかげで、ミクさんの左手の解像感は著しく低下してます。
 このような、ミクさんが動く箇所にだけ残像が発生する現象は、過去にBD化された初音ミクライブ、全てにおいて観測できます。しかし、現地でディラッドスクリーンを見ていても、このような残像は見えません。つまり、BDに収録されたミクさんにだけ残像が発生し、解像感の低下をもたらしていることなります。

▲BD「初音ミク マジカルミライ2013」より

残像の原因

 この残像の原因は、ずばり、ミクさんの表示タイミングと、カメラの露光タイミングが一致していないことです。
 初音ミクライブでミクさんをディラッドスクリーンへ投影しているのはDLPです。マジカルミライではパナソニック製PT-DZ21Kが使用されていました。DLPは、入力されるSDI信号をそのまま走査して表示しているわけではなく、送られてくる映像信号が1フレーム分メモリ上に貯まるのを待ってから、1フレーム同時に読み出し、1/59.94秒間表示します。そもそもミクさんの映像というのは、動くミクさんを1/59.94秒ごとに止めて、JPEGファイルとして書き出した画像ファイルの連番ファイルを映像ファイルにしたものです。よって、ディラッドスクリーンには連番の画像ファイルが表示されていて、1/59.94秒ごとに次の画像に切り替わっている、とも言えます。
 一方、このディラッドスクリーンを撮影しているカメラは、CCDカメラです。マジカルミライではSONY製HDCシリーズが使用されていました。CCDは全画素同時露光するデバイスですので、露光のメカニズムはフィルムと同様に考えることができます。マジカルミライでは撮影フォーマットは59.94iでしたので、1秒間に59.94枚の写真を撮影していて、その写真1枚の露光時間は1/59.94秒間だったとも言えます。
 では、1/59.94秒ごとに切り替わるミクさんの画像を、1/59.94秒間露光してフィルムに焼き付けたとしたら、何が起こるでしょう。うまくいけば、下記画像左側のように、ミクさんの画像とフィルムが1対1になります。しかし右のように、カメラが露光するタイミングがズレるだけで、1枚のフィルムに2枚のミクさん画像が露光されることになります。
 これが、初音ミクライブのBDで、ミクさんが動く部分に残像が見える仕組みです。


解決策

 現在のミクさん投影、撮影システムは、下記画像左図のよにう、シンクジェネレータを使用していると思われます。シンクジェネレータを使用しているのは、ミクさんの画像送りのタイミングを複数のDLPで一致させるため、また、複数カメラの露光開始タイミングを一致させるためです。しかし、ミクさん投影チームと撮影チームで、それぞれ独自にシンクジェネレータを用意しているために、カメラの露光開始タイミングはミクさんの画像切り替わりタイミングと一致しません。
 そこで、右図のように、カメラの同期信号もミクさん投影チームからもらうようにします。また、DLPの画像処理時間の遅れを吸収するために、カメラがもらう同期信号は位相調整できるようにします。位相の調整は、カメラで撮影したミクさんが二重に見えくなるまで追い込む形になります。
 このように、ミクさん投影システムと撮影システムで同じ同期信号を使用することで、ミクさんの画像が切り替わるタイミングと、カメラの露光開始タイミングを一致させ、ミクさんの残像を防ぐことができます。


おわりに

 初音ミクライブが始まって5年経とうとしていますが、映像のプロであるはずの撮影チームがこの問題を解決しようとしていないことが残念です。ミクさん投影は制作の側近が行い、撮影・収録は都度外部会社へ発注しているために、ミクさん撮影ノウハウが貯まらない構造も原因なのではないかと思います。
 この記事が制作関係者の目に触れて、次回の初音ミクライブでは撮影方法が改善されることを望みます。

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